目次
介護人材育成が必要な理由
介護人材育成に取り組むメリット
メリット1)介護事故の防止
メリット2)職員の定着率向上
メリット3)介護の質の向上
メリット4)職員のモチベーション向上
介護人材育成に取り組む手順
【4ステップ】新人指導
第1段階 理念・コンセプトを知る
第2段階 介護知識・理論を学ぶ
第3段階 現場で介護技術を学ぶ
第4段階 介護専門職を目指す
介護人材育成に取り組む際のポイント
ポイント1)新人育成の期限を決める
ポイント2)指導テーマを設定する
ポイント3)目標(完成度)を設定する
ポイント4)明確な(手取り足取りの)指導を行う
ポイント5)評価とコミュニケーションの機会をつくる
介護人材育成の取り組み事例
まとめ
■介護人材育成が必要な理由
介護事業は“労働集約型”と言われます。たくさんの人手をかけて、チームワークで行うのが介護の仕事だからです。ですから、介護人材を育成して質の高いサービスを提供することは、メーカーが優れた商品をつくるのと同様にとても重要なことです。しかし、育成が必要な理由は、それだけではありません。
採用難が続く介護業界では、人材が多様化しています。少子化により介護福祉士の養成校は定員割れが相次いでいます。閉鎖される養成校も少なくはありません。福祉業界を志す学生の減少を補うのは、主に中途の無資格未経験の人材です。こうした人材の年齢は幅広く、なかには定年後にはじめて介護職に就く新人もいます。また、職歴も多様で、外国人も増えています。
こうした人材を、従来の“先輩の背中を見て技術を盗む”ような職人的な教育法で育成するのは困難です。育成の遅れにより1人のスタッフが“1人分”の仕事をしてくれなければ、しっかりとしたケア、サービスは提供できません。基礎から応用までのきめ細かいプログラムが不可欠と言ってよいでしょう。
しかし、きめ細かい人材教育プログラムの実施を阻むのも“人材不足”です。教える人材が現場にいないため、手取り足取りの教育ができないのが現実なのです。そこで、ここでは人手不足でも実施可能な介護人材育成法について解説します。
■介護人材育成に取り組むメリット
介護事業において、人材育成を強化するメリットは多々あります。新人の成長段階にそってあげると、次のようになります。
メリット1)介護事故の防止
育成のメリットであり最初の目標にもなるのが、安全なケア、サービスができるようになることです。介護現場において、最もあってはならないのが“事故”です。スキル不足により転倒や転落、与薬ミスがあってはいけません。事故防止が最大のメリットと言えるでしょう。
また、事故とは違いますが、利用者を子供扱いして“ちゃん付け”したり、認知症の方に「◯◯してはダメ!」などとスピーチロックするといったマナー違反も、教育によって予防することができます。
メリット2)職員の定着率向上
無資格未経験の新人は、当然ながら介護の仕事に就くのは初めてです。多くの人材が「私に介護の仕事ができるだろうか?」、「介護職は私に合わないのでは?」と不安を抱えながら仕事をしています。ですから、できるだけ初期段階でしっかりと指導をし、スキルをつけてもらって「これからも介護の仕事を続けていける」という自信を持ってもらうべきですが、指導が不足すれば、離職が増えるという結果になります。つまり、育成強化は定着率アップにも効果があるのです。
メリット3)介護の質の向上
この点は言うまでもないでしょう。指導をしてしっかりとしたケア、サービスの技術を身につければ、質の高いサービスを提供することができます。
メリット4)職員のモチベーション向上
利用者、入所者に対して質の高いサービスを提供できるようになれば、おのずと利用者だけでなく、家族や同僚からも感謝される機会が増えます。上司から褒められる頻度も高くなるでしょう。それらによって、モチベーションが上がるきっかけになるかもしれません。
■介護人材育成に取り組む手順
介護現場において人材育成が円滑に進まない理由は、介護素人である新人に対して、最初から難しいことを教えることにあります。入社初日から現場につかせて、「そのうち慣れるから」と放置したり、まだ利用者の顔と名前すら一致しない段階から「あの利用者は、ここを注意してケアしてね」などと言う施設すらあります。
介護の仕事は、とても幅広い知識を身に着けなければなりません。介助スキルや専門用語だけでなく、その現場でしか通用しない独特の表現もあります。また、高齢化による身体機能の低下や認知症についてもそうですし、暮らしを支える上では、お年寄りが生きてきた時代や当時の歌までおぼえることすら必要となります。ですから、最初から欲張っていろいろと指導してしまうと、消化不良を起こして、余計に時間がかかるのです。
【4ステップ新人指導】
第1段階 理念・コンセプトを知る
まず、現場に立つ前にしてほしいのが、皆さんの施設の理念やコンセプトを伝えることです。その理由は、法人・事業所によって、同じ場面でも介助の方法が変わるからです。
例えば “自立支援”を重視した特養と、“穏やかな暮らし”を意識した特養があったとしましょう。前者では、残存機能をできるだけ活用するために、食事や入浴の場面で最低限のサポートしかしないかもしれません。しかし後者では、場合によって積極的に介入することもあるでしょう。このように、まずはあなたの施設で“何を大事にしているのか”を伝えなければ、現場に立つことはできないのです。
第2段階 介護知識・理論を学ぶ
現場に配属されると、じっくりと知識を身につける時間がとれなくなります。短時間でも良いので、最低限の知識は指導するようにしましょう。また、移乗・移動介助などの現場で多用する技術は、体のメカニズムも含めてしっかりと知っておいた方が、早期に育成することができます。
そこである施設では、パートも含む全ての新人を対象に、以下のようなテーマを動画と実習で1日かけて指導しています。
□介護保険制度とは □勤務する施設概要 □人員基準・設備基準 □基本報酬・加算
□認知症とその症状 □現場で使う専門用語 □現場に潜む危険 □自立支援の目的 □挨拶・コミュニケーション □移動・移乗 □1日の流れ 等 |
第3段階 現場で介護技術を学ぶ
ここでやっとOJT(On-the-Job Training)に移ります。OJTで気を付けていただきたいポイントは後述する「介護人材育成に取り組む際のポイント」をご覧ください。新人への教育は第3段階で終了です。
第4段階 介護専門職を目指す
介護人材の育成は、一旦は新人教育で終了ということになりますが、それでは“専門職”と言えるレベルには到達しません。認知症、医療的ケア、自立支援などの専門知識ついては、いくら学んでもゴールということはありませんし、将来的に相談員やケアマネジャーを目指すのであれば、アセスメント、モニタリングやプランニングの技術、知識も身に着けなければいけません。
こうしたテーマに関して、社内で教えられればベストですが、そうした人材がいなければオンラインセミナーや自治体・社協などが主催する外部の講義を上手に活用しましょう。
■介護人材育成に取り組む際のポイント
4ステップ新人指導のうち、最も重視してほしいのは、3つ目の「現場で介護技術を学ぶ」段階です。OJTでは、以下の5つのポイントを押さえて進めましょう。
ポイント1)新人育成の期限を決める
どれくらいの期間で“新人”を卒業するのが良いのかを明確にしましょう。私の経験では、通所で3ヶ月から半年、入所で夜勤まで入れれば1年程度あれば十分でしょう。この期間は、あくまで未経験の場合ですので、未経験者をベースとして期間を決定し、経験者を対象に指導するケースでは、経験値に合わせて期間を短縮しましょう。
ポイント2)指導テーマを設定する
次に新人期間に指導するテーマ、項目をすべてピックアップします。基本から応用へとリストを作成すると良いでしょう。ぬけもれがないように、1日、1ヶ月の業務をイメージしながら、とにかくすべての業務を書き出すのです。
ここで忘れてはならないのは「ICT機器の使用目的や操作方法」です。指導が面倒だからといって後回しにすると、指導がおざなりになりがちですので、リスト化して新人のうちにしっかりと指導しておきましょう。
ポイント3)目標(完成度)を設定する
書き出した項目について、どれくらいできれば「合格」となるのかを決めておきましょう。相手は新人ですから、新人がポイント1で設定した期間で習得できる程度の完成度を目標にしましょう。
ポイント4)明確な(手取り足取りの)指導を行う
OJT中は、必ずトレーナーを決めましょう。シフト制での勤務の場合、1人のトレーナーがすべての項目を教えるのは難しいと思いますが、だからといって担当者を決めなければ、指導の進捗状況がわからなくなり、責任の所在があいまいになりますから、あらかじめ「指導管理者」として決めておくのです。
指導する際には、1日の業務の中で教えても構いませんが、特に頻度の高い業務については、新人が理解できるまでしっかりと指導しましょう。その時点では手間がかかりますが、最初に手間を惜しまずにトレーニングができれば、早期に活躍してくれるようになるはずです。
ポイント5)評価とコミュニケーションの機会をつくる
日々の業務の中で、新人の育成状況を把握するのは困難です。1ヶ月に1度程度、リストを一緒に確認しながら、それぞれの業務の評価とその後の指導計画を立てるための面談を行いましょう。業務上わからないことや、悩みを解決する場にもできたら一石二鳥です。
■介護人材育成の取り組み事例
私が新人指導プログラムの構築をサポートする際には、以下の3点も一緒に導入を検討していただいています。とても効果的ですので、ぜひご検討ください。
トレーナー向け研修 | トレーナーを対象に「新人指導の流れ」「指導項目」「面談方法」を講義する。講義を受けた職員しか、トレーナーに就くことはできない。 |
トレーナー手当 | 新人指導中に限定して、毎月手当を支給する(3〜5000円/月)。手当を支給するほうが、責任をもって指導するようになる。 |
卒業検定 | 新人研修が終了したかどうかを、実技(移動、移乗時の動作と声掛け)とテストで評価する。 |
■まとめ
冒頭でお伝えしたように、最近は「人手が足りなくて新人を指導する暇がない」という声をよく聞きます。だからといって、指導が不足すれば、せっかく採用した人材が離職するリスクも大きくなります。ぜひこれらのポイントを押さえて、できる限り効率的に、且つ早期に新人を育てていきましょう。
執筆 | 株式会社スターコンサルティンググループ 代表取締役 糠谷和弘氏 介護保険施行当初から介護経営コンサルタントとして活躍する草分け的存在。指導実績は500社を超え、「日本一」と呼ばれる事例を多数つくってきた。現場指導のかたわら、多数の連載のほか、年間50本以上の講演もこなす。また「旅行介助士®」を養成する一般社団法人日本介護旅行サポーターズ協会の代表理事、福祉事業を総合的に運営する株式会社エルダーテイメント・ジャパンの代表取締役も務めている。 |