介護業界の離職率は?スタッフが辞めない職場環境の作り方

介護経営

2025.03.10

目次


1.介護職員の離職率の現状
2.介護職員が離職する原因
3.介護職員が辞めない職場環境の作り方
4.まとめ

 

1.介護職員の離職率の現状

介護の仕事と聞くと、「離職率が高い」というイメージを持つ方が少なくないと思います。たしかに、一時期は高水準で推移していましたが、最近では低下傾向にあります。

「令和5年度介護労働実態調査」によると、2023年度の介護職員の離職率は13.1%ですが、これは全産業平均の15.4%(雇用動向調査)を下回る水準となっています。離職率が下がっている要因は様々ですが、国による処遇改善の施策により介護職員の給与額が上がってきていることや、各事業所による人材定着のための取り組みの効果が出ていることも考えられるでしょう。

しかしながら、多くの現場では、職員の“不足感”が続いていると思います。統計上、離職率が下がっているからといって、現場の職員が充足していることにはなりません。また、人材定着の取り組みの効果が出ているということは、裏を返せば、取り組みが不十分な事業所には、ますます人が集まらなくなるとも読み取ることができます。離職をゼロにすることはもちろん不可能ですが、「防げる離職」はできる限りおさえたいものです。

では、今後介護事業者は、離職防止のためにどのような取り組みをすべきでしょうか。そのヒントとして、まずは職員が離職する原因を考えてみましょう。

 

2.介護職員が離職する原因

職場の人間関係 介護事業所の場合、人間関係を拗らせる原因は「方針」や「ルール」が不明確であるケースが多くあります。例えば、配膳の場面1つとっても、「職員が提供する」べきか、「利用者に取りに来ていただく」べきかは、施設の方針によって異なります。

様々な価値観・介護観を持った職員が集まる介護施設において、ルールが曖昧だと「あの職員のやり方は間違っている」といった不満につながります。また、業務の目的を明確に伝えないために、「この業務は、なぜ自分がやらなければならないのか?」といった疑問を抱え、法人に対して不信感を募らせるケースも見受けられます。

不十分な入職時教育 新卒よりもむしろ、中途やパート職員の入職時教育が不十分であるケースは多く見られます。未経験であるにも関わらず、労働条件などを伝えるオリエンテーションのみを簡単に済ませ、即OJTを実施していないでしょうか。

要領がよい人であればそれでもよいかもしれませんが、多くの人は着いていくのが大変です。先輩に質問をしたくても忙しくてつかまらず、不安を抱えたまま独り立ちさせられる・・・このような「不安」がやがて「不満」となり、早期離職につながるのです。

給与、待遇面などの労働条件 給与水準は上がってきてはいるものの、全産業平均と比べると、年収では110万8,400円の差があるのが現状です。(NCCUによる賃金実態調査)また、介護職員は年収よりも月収を重視する傾向にあります。そのため、同業種で転職をする場合には、同じ年収であれば、月収が高い事業所に人材が流れやすくなります。
頑張りが給与に反映されない 形のうえでは等級制度があっても、昇級の基準が曖昧で、実態はいわゆる「年功序列」になっているケースもよく見受けられます。頑張っている職員からすれば「なぜ、私よりも○○さんの方が給料が高いのだろう?」といった不満を感じることもあるでしょう。
勤務体制が不規則 夜勤のある入所施設などは、給与が(手当の分)高い反面、身体への負担が大きくなります。採用活動においては、日勤のみの通所施設よりも入所施設の方が人材が集まりづらい傾向にあります。
体力面での負担 介護職員の平均年齢は48.4歳(令和5年度介護労働実態調査)であり、年齢的にも体力面の負担を感じる職員が少なくありません。また、腰痛が原因で休職や離職をするケースもあります。
ライフスタイルの変化 就職(転職)情報サイトを見るとよくわかりますが、近年は働き方のニーズが多様化しています。

代表例としては「年間休日日数120日以上」「週休3日制」「副業可」などです。さらに、居宅などの一部の業態においては「フレックス制度」「在宅勤務」も、子育て世代を中心にニーズが高まっています。これらに対応できなければ、人材が流出してしまう可能性があります。

 

3.介護職員が辞めない職場環境の作り方

以上をふまえて、介護職員が定着するために、次のような取り組みをしていただきたいと思います。

法人・施設の方針を明確に伝える 現場レベルで曖昧になっているルールがあれば、即見直しましょう。また、その際に「このルールで業務をする目的」を明確に伝えることがとても大切です。本来であれば、「経営理念」→「施設のコンセプト」→「現場レベルのルール」が一本につながっているべきです。ですが、現場の職員にとっては「経営理念」はイメージがしづらいので、具体例を用いながらかみ砕いて説明しましょう。

例)理念→施設コンセプト→現場のルールの例

「うちの施設では、お客様の幸せな老後をサポートするために、自分の足で歩き続けることをコンセプトにしています。そのため、配膳もできる限りご自身でしていただくようにしています」

理念 幸せな老後をサポートする
施設コンセプト 自分の足で歩き続ける
現場のルール 配膳はできる限りご自身でしていただく
新人教育の「仕組み」を作る 無資格・未経験の方が入職するのは、もはや当たり前になりました。また、新人(中途・パートを含む)は必ずしも仕事に対するモチベーションが高い人ばかりではありません。

そのような新人さんに「背中を見て覚えろ」と言っても長続きしませんから、以下の点をおさえた教育の仕組みを構築しましょう。

①     独り立ちまでに指導する項目をリスト化する

「教え忘れ」がないように、まずは指導項目をリスト化します。

②     現場で必要な「知識」はOJTの前に座学で説明する

未経験の人は、何もわからないまま現場に入るよりも、最低限の知識を先に身につけてもらった方が覚えが早くなります。オンライン講座などを上手く活用しながら、半日~1日程度、座学の時間を確保しましょう。

③     難易度の低い業務から順番に指導する

難易度が高い業務は1か月後、2か月後などに指導しましょう。

④     一定の期間内で教える量を適正にする

一度にたくさんのことを指導しても、未経験の新人は混乱してしまいます。「入職1ヶ月目まではここまで指導する」といったように、指導の時期と内容の計画を予め立てておくのがお勧めです

⑤     定期的な面談でフォローアップする

「2週間目」「1か月目」など、節目のタイミングで面談を実施しましょう。その際に、習得状況や教え漏れの有無、不安な点などを確認して、新人が安心してOJTを卒業できるようにサポートしましょう。

評価基準と給与の連動方法を明確にする 「何を頑張れば、給料が上がるのか」は明確にされるべきですし、頑張っている職員にこそ給与で報いたいものです。

l  知識や技術の評価

多くの事業所で導入されている「等級制度(キャリアパス制度)」は、職員の「知識」や「技術」を昇級試験で評価します。合格をしたら晴れて昇級し、基本給や昇給幅が上がります。

技術は、例えば「移乗介助が正しい方法でできる」といった評価基準が想定されるので、上長が普段の仕事ぶりを見て評価することができます。介護保険の基礎知識など、仕事ぶりを見ても評価できない項目については、筆記試験を行います。

l  意識や行動の評価

一方、職員の「意識」や「行動」とは、例えば「気持ちのよい挨拶」や「会議での積極性」などを指します。これらは「人事評価制度(人事考課)」で評価をするべきものです。

先述の「等級制度」と混同されやすいのですが、知識や技術は一度できるようになったら(昇級したら)、下がることはないのが特徴です。それに対して、「気持ちのよい挨拶」などは、モチベーションが下がれば、前回の評価よりも点数が下がることは十分にあり得ます。通常は年1~2回の定期的な評価となるため、賞与や昇給幅に反映させるケースが多いです。評価結果をどのように集計し、賞与額を計算するか、できる限りオープンにすることをお勧めします。

 

いずれの制度も、制度の大枠(等級を何段階にするのかなど)は経営幹部が考え、評価の基準は、現場の役職者に協力をしていただき構築するのがよいでしょう。

ICT化・介護ロボットを導入し業務負担を軽減する 夜勤負担の軽減につながる見守りセンサーや、AIによる送迎計画の自動作成システムなど、ICT化が職員の負担感に大きく影響を与えることは言うまでもありません。

定着はもちろん、採用面においても、これらのシステムが導入されていることがもはや前提条件になりつつあります。

ここでおさえていただきたいのは、「自施設に合ったベストなシステムを探す」のではなく、「システムに、施設の運営方法を合わせる」ということです。システムは、より多く売るために「全国標準」に合わせて開発されています。ですから法人ごと、拠点ごとのルールに合わせるのには限界があります。システム導入を機に運営方法を見直すことも想定しておきましょう。

また、介護職員はICTに苦手意識を持つ方も多く、年齢層が上がるにつれその傾向は強くなります。導入する際には、職員向けの研修はもちろん、職員によっては個別のフォローが必要となるでしょう。

多様な働き方ができるよう就業規則等を見直す 先述した「週休3日制」「副業可」など、働き方のルールそのものを変えなければ、採用・定着が難しくなっています。特に休日日数については、医療・介護業界では6割以上の事業者が120日未満であるのが現状です。(厚生労働省令和5年就労条件総合調査)しかし、仮に週休3日制を導入すると、180日以上が休日になります。これは働き手に取ってとても大きなインパクトです。

 

4.まとめ

介護業界の離職率は低下傾向にあるものの、今後も人材獲得競争が続くことは間違いないでしょう。定着の取り組みには、やるべきことが沢山ありますが、どれも一朝一夕にできるものではありません。皆さんの事業所の実情をふまえ、優先順位をつけて着手していただきたいと思います。

 

執筆 株式会社スターコンサルティンググループ  近藤麻耶氏

 

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