生産性向上推進体制加算とは
令和6年度の介護保険制度改正では「介護ロボットやICT等のテクノロジーの活用促進」を目的に「生産性向上推進加算(I)(II)」が新設されました。対象業種は限定されますが、算定できれば、利用者ごとに一月あたり(II)で10単位、(I)で100単位となります。人件費、食材費、設備・備品や光熱費等の高騰で経営的に厳しい環境下ですから、何とか算定したいところです。
新設された加算の中では、比較的、点数が高い方に分類されますが、算定のためには「委員会の設置」「テクノロジー機器の導入」と「活用」だけでなく、業務が改善されたことを示すデータを提出しなくてはいけません。それを知って、算定に二の足を踏んでいる事業者も少なくないでしょう。
そこで本記事では、これから重要な加算のひとつである「生産性向上推進体制加算(I)(II)」の算定要件と、そのためのポイントを解説します。
生産性向上推進体制加算の対象となる施設
本加算の対象となるのは「短期入所系サービス」、「居住系サービス」、「多機能系サービス」、「施設系サービス」の4つです。
具体的には、以下のようになります。
【短期入所系サービス】 | ■短期入所生活介護(介護予防含む) ■短期入所療養介護(介護予防含む) |
---|---|
【居住系サービス】 | ■特定施設入所者生活介護(地域密着型含む)■認知症対応型共同生活介護(介護予防含む) |
【多機能系サービス】 | ■小規模多機能型居宅介護(介護予防含む) ■看護小規模多機能型居宅介護(介護予防含む) |
【施設サービス】 | ■介護老人福祉施設(地域密着型含む) ■介護老人保健施設 ■介護医療院 |
生産性向上推進体制加算(Ⅱ)の算定要件
「生産性向上推進体制加算」は(Ⅱ)とより上位の(Ⅰ)の加算がありますが、(Ⅰ)の算定要件に「(Ⅱ)の要件を満たし、(Ⅱ)のデータにより業務改善の取り組みに成果が確認されていること」とありますので、まずは(Ⅱ)からの算定要件から解説します。
※すでに生産性向上の取り組みに着手していて、(Ⅱ)と同等以上のデータを示すことができる場合には、(Ⅰ)から算定することが可能です。
【単位数】 | 10単位/月 |
---|---|
【算定要件等】 | ・利用者の安全並びに介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減に資する方策を検討するための委員会の開催や必要な安全対策を講じた上で、生産性向上ガイドラインに基づいた改善活動を継続的に行っていること。 ・見守り機器等のテクノロジーを1つ以上導入していること。 ※機器については後述します ・1年以内ごとに1回、業務改善の取組による効果を示すデータの提供(オンラインによる提出)を行うこと。 |
生産性向上推進体制加算(Ⅰ)の算定要件
次に(Ⅰ)の算定要件は、以下のようになります。前述のように、Ⅱの要件を満たすことが条件となります。
【単位数】 | 100単位/月 |
---|---|
【算定要件等】 | ・(Ⅱ)の要件を満たし、(Ⅱ)のデータにより業務改善の取組による成果が確認されていること。 ・見守り機器等のテクノロジーを複数導入していること。 ・職員間の適切な役割分担(いわゆる介護助手の活用など)の取組等を行っていること。 ・1年以内ごとに1回、業務改善の取組による効果を示すデータの提供(オンラインによる提出)を行うこと。 |
テクノロジー機器の選定
本加算の算定要件に、テクノロジー機器の導入があります。見守り機器の種類は、次の3種類です。
生産性向上推進体制加算(Ⅱ)では、前述の通り「1つ以上」導入すれば良いですが、(Ⅰ)では、「複数」の機器を導入しなくてはなりません。
ア | 見守り機器 |
---|---|
イ | インカム等の職員間の連絡調整の迅速化に資するICT機器 |
ウ | 介護記録ソフトウェアやスマートフォン等の介護記録の作成の効率化に資するICT機器 |
さらに(Ⅰ)の要件には、以下のような要件が加えられています。
見守り機器等のテクノロジーを複数導入するとは、少なくともアからウまでに掲げる機器は全て使用することであり、その際、アの機器は全ての居室に設置し、イの機器は全ての介護職員が使用すること。なお、アの機器の運用については、事前に利用者の意向を確認することとし、当該利用者の意向に応じ、機器の使用を停止する等の運用は認められるものであること。
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「生産性向上へ向けた委員会」の設置
加算の算定には、「利用者の安全並びに介護サービスの質の担保及び職員の負担軽減」を検討する「委員会」の開催が義務付けられています。
具体的には、以下の4点の検討を行います。
- 利用者の安全及びケアの質の確保
- 職員の負担の軽減及び勤務状況への配慮
- 介護機器の定期的な点検
- 職員に対する研修
委員会に参加するメンバーは現場職員の意見が適切に反映されるよう管理者だけでなく、実際にケアを行う介護職員を含む幅広い職種から選抜します。
さらに、現場の状況を知るユニットリーダー等の参画も求められます。また、開催頻度は3ヶ月に1回以上が要件となっています。
1年以内ごとに提出が必要なデータとは
生産性向上推進体制加算(Ⅰ)および(Ⅱ)で提出すべきデータは、次のようになります。
提供を求めるデータ | (Ⅰ) | (Ⅱ) |
ア 利用者のQOL等の変化(WHO-5等) | 〇 | 〇 |
イ 総業務時間及び当該時間に含まれる超過勤務時間の変化 | 〇 | 〇 |
ウ 年次有給休暇の取得状況の変化 | 〇 | 〇 |
エ 心理的負担等の変化(SRS-18等) | 〇 | |
オ 機器の導入による業務時間(直接介護、間接業務、休憩等)の変化(タイムスタディ調査) | 〇 |
これらのデータに関する詳しい情報は、以下からダウンロードすることができます。
「介護保険最新情報 Vol.1218 令和6年3月15日(https://www.mhlw.go.jp/content/001227729.pdf)」
これらの項目だけ見ると、とても大変な作業に感じます。しかし、上記資料を読むと「利用者のQOL等の変化」における調査対象は、利用者全員ではなく「5名程度」となっています。
加算算定のポイント
加算算定には「委員会の実施」「テクノロジー機器の導入と活用」「データ提出」の3つのハードルがあります。委員会の設置については、加算を算定するどうかにかかわらず義務付けられたため、行わなくてはいけません。
また「データ提出」に関しては、集中して取り組めば早くて1日。かかっても数日で完了できる程度の業務です。(1)の一人100単位/月という報酬を考えれば、これくらいの業務負担ならば算定すべきと言えます。
残るは「テクノロジー機器の導入と活用」です。ここでつまづく事業者も多いでしょう。しかし仮に、この加算がなかったとしても、介護現場のICT化は不可欠です。業務負担を軽減しなければ、今のような厳しい環境を乗り越えることはできません。
それに、介護現場のICT化によるメリットは、これだけあります。
【介護現場のICT化によるメリット】 |
★業務負担の軽減 |
★コスト削減(人員の適正化) |
★サービス品質の向上(負担軽減により生み出した時間をケアにあてることも含む) |
★事故などの予防と急変時の緊急対応 |
★採用強化(若年層の人材採用には必須) |
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こうしたメリットを享受するためには、2つのポイントがあります。
ポイント1 現場に合った機器選びをあきらめる
事業所ごとのやり方にぴったり合った機器を探すことは、不可能とも言えます。なぜなら、機器の多くは、たくさん売ることを目的に開発されており、事業所ごとの独特なやり方ではなく“全国標準”に合わせて作られているからです。ですから、機器を無理やり現場に合わせようとするのではなく、機器に現場のやり方を合わせることを意識しましょう。
ポイント2 初期の負担増に耐える
どんなシステムでも、導入してすぐに負担が削減されるなどの成果が出るわけではありません。機器操作に慣れるまでには時間を要しますし、導入する目的によっては、古いやり方と新しいやり方が一時的に同時に進行することもあります。図のように、機器の効果が出るまでぐっと我慢しましょう。
まとめ
令和6年度の制度改正は、あまり“目玉”と呼べるような加算はありませんでした。
そのような中で新設された「生産性向上体制加算」は、現場の業務負担を軽減するという時流にも合っていますし、(Ⅰ)を算定できれば、ある程度の報酬を見込むことができます。
データ提出などの面倒な業務もありますが、ぜひ前向きに取り組んでみましょう。
執筆 | 株式会社スターコンサルティンググループ 代表取締役 糠谷和弘氏 介護保険施行当初から介護経営コンサルタントとして活躍する草分け的存在。指導実績は500社を超え、「日本一」と呼ばれる事例を多数つくってきた。現場指導のかたわら、多数の連載のほか、年間50本以上の講演もこなす。また「旅行介助士®」を養成する一般社団法人日本介護旅行サポーターズ協会の代表理事、福祉事業を総合的に運営する株式会社エルダーテイメント・ジャパンの代表取締役も務めている。 |
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