「生産性向上推進体制加算」取得に向けて 〜テクノロジー機器の賢い導入法〜

介護経営

2024.11.15

生産性向上推進体制加算とは

令和6年度の介護保険制度改正から「介護ロボットやICT等のテクノロジーの活用促進」を目的に「生産性向上推進加算(I)(II)」が新設されました。しかし「算定が面倒」とか「そもそもテクノロジー機器を導入して、本当に生産性が上がるの?」といった声も耳にします。確かに算定のためには、「委員会の設置」、「テクノロジー機器の導入」と「活用」だけでなく、業務が改善されたことを示すデータを提出しなくてはいけません。

そうは言っても、人件費、食材費、設備・備品や光熱費等の高騰で経営的に厳しい環境下であり、テクノロジー機器の活用は不可欠と言える状況です。しかも、算定できれば利用者ごとに一月あたり(II)で10単位、(I)で100単位となります。今すぐにとは言わないまでも、なんとか算定して収入を確保したいところです。

そこで本記事では、前コラム「新設された『生産性向上推進体制加算』とは」に続いて、テクノロジー機器の賢い導入法を中心にお伝えします。

生産性向上推進体制加算(Ⅰ)と(Ⅱ)の違い

まず、本加算の対象となるのは「短期入所系サービス」、「居住系サービス」、「多機能系サービス」、「施設系サービス」の4つです。具体的には、以下のようになります。

【短期入所系サービス】 ■短期入所生活介護(介護予防含む) ■短期入所療養介護(介護予防含む)
【居住系サービス】 ■特定施設入所者生活介護(地域密着型含む)■認知症対応型共同生活介護(介護予防含む)
【多機能系サービス】 ■小規模多機能型居宅介護(介護予防含む) ■看護小規模多機能型居宅介護(介護予防含む)
【施設サービス】 ■介護老人福祉施設(地域密着型含む) ■介護老人保健施設 ■介護医療院

また「生産性向上推進体制加算」は、(Ⅱ)とより上位の(Ⅰ)の加算があります。要件の違いは以下のようになります。

単位数 10単位/月 100単位/月
委員会の開催
効果を表すデータの提供 1年以内ごとに1回 1年以内ごとに1回
改善成果の確認
職員間の適切な役割分担の取組
テクノロジー機器 見守り機器等のうち1つ以上導入を導入 「㋐見守り機器」「㋑インカム等の職員間の連絡調整の迅速化に資するICT機器」「㋒介護記録ソフトウェアやスマートフォン等の介護記録の作成の効率化に資するICT機器」のすべてを導入

このように、より上位の(Ⅰ)の算定要件は「(Ⅱ)の要件を満たし、(Ⅱ)のデータにより業務改善の取り組みに成果が確認されていること」となります。 ※すでに生産性向上の取り組みに着手していて、(Ⅱ)と同等以上のデータを示すことができる場合には、(Ⅰ)から算定することが可能です。

より詳しい算定方法を知りたい方は、前コラム「新設された『生産性向上推進体制加算』とは」をご一読ください。

「生産性向上推進連携加算(Ⅱ)を算定するメリット

 上位加算である(Ⅱ)を算定するメリットが“単位が高い”ことであるのは、言うまでもありません。仮に100床の特別養護老人ホームであれば、1床で月間100単位ですから1000単位となります。1単位=10円とすると、施設全体として最大で10万円の報酬を獲得することになります。年間で言えば120万円。利益の確保が非常に難しい経営環境ですから、決して少ない額ではないでしょう。

ただし、算定のためには「初期投資」はかかります。それに、データを作成して報告するためには、一時的に業務が増大しますし、そこにかかる「人件費」も想定しておく必要があります。

しかし今なら、ICT機器の導入には様々な補助金、助成金があります。こうしたものを活用すれば、初期コストも抑えることが可能です。また、データ提出のための業務負担、人件費も、集中して取り組めば数日で作成できる程度の量です。獲得する額と比較すると、小さな出費と言えます。

仮に、加算による報酬とコストがイコールで利益が残らなかったとしても、本加算の算定をきっかけに業務の効率化、負担の軽減ができれば、今後の経営にも大きなプラスとなります。大きな支障がないのであれば、積極的に取り組むべき加算と言えるでしょう。

加算の算定と「生産性向上」を両立させるポイント

加算が算定できたとしても、テクノロジー機器の導入が“重荷”になるのであれば「成功」とは言えないでしょう。ポイントは5つあります。


ポイント1)機器の選定

私は、介護現場で使われる数々の機器開発に携わってきました。その経験から言えることは「最高の機器(あなたの施設にぴったりマッチした機器)などない」ということです。

というのも、メーカーはそれを「たくさん売りたい」という目的で開発します。できるだけ多くの施設で使ってもらえるように、独自性を排除した“標準的”な商品をつくります。ですから、施設側が「最高の機器」と考える“施設独自のやり方”にあった機器などは存在しないのです。

つまり、機器を導入する際には、機器が施設のやり方に合わせるのではなく、施設が機器の機能に合わせる必要があります。となれば、機器選びのポイントは“その機器に合わせて現場の動きを変えられるかどうか?”ということになります。

ポイント2)導入目的の明確化と説明

最近のテクノロジー機器は発展が著しく、機能が次々に追加されていきます。しかし(残念ながら)、介護士はこうした機器に対して苦手意識を持っているのが実情です。しかも、前コラムでもお伝えしたように、機器の導入直後は、業務負担が一時的に増大します。目的があいまいなまま導入したり、説明が不足すると、現場スタッフが機器の利用を拒否したり、浸透するのに時間がかかることになります。

一度失敗するとその経験がブレーキとなり、2つ目、3つ目の機器の導入もスムーズでなくなります。生産性向上推進体制加算(Ⅰ)の算定には、複数の機器の導入が不可欠ですから、取り返しのつかないことになるかもしれません。導入前に委員会などを設置し、よく議論して「◯◯を効率化するため」とか「◯◯を正確に行うため」などの“目的”を明確にし、それらを現場スタッフに説明する機会を設けましょう

ポイント3)オペレーションの見直しと活用方法の具体化

機器を導入する際のポイントは“機器に施設が合わせること”でした。機器を活用するには、オペレーション(現場の動き方)を見直す必要があります。例えば、見守り機器として睡眠センサー(睡眠状態、体温、心拍、体の動きをセンシング)を導入した特養では、定時での居室訪問をやめて、センサーを確認しての個別訪問に切り替えました。むしろ、オペレーションが変わらなければ、機器を導入した意味がないとも言えるかもしれません。

次に、機器の活用方法を具体化します。項目としては「時間」「場面」「担当者」「手順(機器を活用する前後も含めて)」「頻度」などです。睡眠センサーで言えば、データを表示するモニターを見続けるわけにはいきませんから、いつ、どこで、誰が、どうやってモニターを確認し、次の動作(訪室や記録などの対応)につなげるかをルール化しておくのです。

ポイント4)教育指導

機器によっては、現場で使用できるスタッフが限定されると、そのスタッフに業務が集中してしまい、かえって非効率になることがあります。それを防ぐには、できるだけ多くのスタッフが使用できるように教育指導をすることが不可欠になります。
指導の際のポイントは、以下のように職員を分類し、それぞれで指導方法を変えることです。

一軍
☆すぐ戦力化
テクノロジー機器に苦手意識がなく、短期での習得が可能なスタッフ。委員会が直接指導して、後に“トレーナー”になれるように育成する。
二軍
☆期限を決めて戦力化
丁寧に指導をすれば習得ができそうなスタッフ。まずは「研修」や「説明会」を実施して集団指導し、現場では一軍トレーナーがOJTをして育成する。
三軍
☆じっくり育成
テクノロジー機器の使用が苦手なスタッフ。パソコンの立ち上げ方や、タイピングなど、基本的なことから段階的に指導する。場合によっては、機器の使用をあきらめる。

ポイント5)マニュアル化

マニュアル化をするときのポイントは、場面ごとの模範的な動きを具体化することです
例えばインカムであれば、どんな場面でどのような発信をすれば良いかを決めておきます。具体的に言うと、端的に伝える“セリフ(模範的な発信例)”を決めておくのです。でないと、長々と要領を得ないことを言うスタッフや、逆にどんなときに発信すればよいのかがわからず、一言も発しないスタッフが出てきてしまいます。まずは“頻繁に使う場面”からこれらをルール化し、マニュアル化していきましょう。

テクノロジー機器の具体的活用策

ここでは加算の算定要件となる3つの機器ごとに、活用策とそのポイントをお伝えします。

種別1)見守り機器

主に居室やベッドにカメラやセンサーを設置されています。入居者・利用者の身体状況、体の動きをセンシングし、異常を察知してアラームを出す機能が主流です。活用のポイントは“成果を見える化”することです。

過去に「データ画面でいちいち確認するよりも、居室に行って確認する方が効率的だ」ということで、見守り機器が使われなくなった例をいくつも見ています。そこである特養では、機器を使用するユニットと使用しないユニットに分けて、一定期間の居室訪問回数を記録してもらいました。すると、使用しているユニットでは、40%ほどの回数減が見られました。このように成果がわかると、スタッフも活用に前向きになります。

種別2)インカム等の通信機器

多くの施設では、導入直後は「耳が痛い」とか「邪魔だ」という理由で装着を拒否するスタッフが出てきます。「移乗などの介助のときに危険だ」といった“言いがかり”に近いことを言っていた介護士もいました。しかし、インカムの便利さを知ってしまうと「インカムなしでは業務ができない」というように印象も変化していきます。つまり、最大のポイントは“当初の装着時の違和感を我慢して使い続けること”です。
また、前述のように「セリフ」まで具体化しておくと、浸透は早いと思います。

種別3)記録ソフト・記録用スマートフォン等

これらの機器の最大の難所は、操作スキルを身につけることです。それらの指導を丁寧に行うことは、不可欠でしょう。加えて、記録内容を以下の3つに分けておくことが重要です。何をどれくらい詳しく記録するかという判断は、人によってまちまちですから、判断基準がぶれないようにしておくのです。

記録しない 介護保険制度において記録を求められていないことで、且つ、施設として不要と判断するものは、思い切って記録をしないという判断も重要です。
例文通りに記録 最低限、記録しなければならないことに関しては、例文を作成してその通りに記録してもらいましょう。
詳細を記録 身体状況の低下が見られる利用者に関することや、施設としてケアを強化したいテーマなどは、詳細にわたって記録するとしても良いと思います。その際は、どの水準まで入力するのかをルール化しておきましょう。
まとめ

「生産性向上推進体制加算」は、他の加算と比較をすると決して高いとは言えませんが、定員が大きな施設では、そこそこの収益が見込めます。人手不足に加えて、運営コストが上がってきていますから、算定は“必須”と言えるでしょう。しかし、ただ加算を算定するだけでは、業務負担が1つ増えるだけです。これをきっかけに、本コラムで説明した導入のポイントを押さえて、業務効率化、負担の軽減を実現していただきたいと思います。

執筆 株式会社スターコンサルティンググループ
代表取締役 糠谷和弘氏


介護保険施行当初から介護経営コンサルタントとして活躍する草分け的存在。指導実績は500社を超え、「日本一」と呼ばれる事例を多数つくってきた。現場指導のかたわら、多数の連載のほか、年間50本以上の講演もこなす。また「旅行介助士®」を養成する一般社団法人日本介護旅行サポーターズ協会の代表理事、福祉事業を総合的に運営する株式会社エルダーテイメント・ジャパンの代表取締役も務めている。

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