介護施設では近年、スタッフの業務負担軽減やサービスの質向上が求められています。
その解決策の一つとして、ICTの活用が挙げられます。
今回は、介護施設におけるICT化の現状と、得られる効果や懸念点について解説していきます。
目次
介護現場における ICT 化とは?
介護現場で ICT 化が求められる背景
介護スタッフの人手不足
高齢化の加速による介護需要の増加
介護現場で ICT 化で得られる効果
スタッフの業務を効率化し負担を軽減させる
介護ケアの質が向上できる
事務作業における人為的ミスが削減できる
スタッフ間の情報共有が円滑に進む
■介護現場における ICT 化とは?
介護現場におけるICT化とは、情報通信技術を活用することで介護業務を効率化し、サービスの質を向上させる取り組みを指します。具体的には、介護記録や情報共有、コミュニケーションなどにICT機器やソフトウェアなどの活用が挙げられます。厚生労働省は、介護現場でのICT化を推進しており、2019年から「介護ロボット・ICT導入支援事業」を実施しています。この事業では、介護ソフトやタブレット端末、インカムなどのICT機器の導入費用の一部を補助しています。また、今年の報酬改定でも「生産性向上推進体制加算」が新設され介護現場のICT化を後押ししています。
弊社コラムでも生産性向上推進体制加算の情報をまとめています。
https://www.gcomm.co.jp/column/post-1769/
このように介護現場でのICT化の必要性が高まっている背景の一つに深刻な人手不足があります。厚生労働省の調査によると、2025年には約34万人の介護人材が不足すると予測されています。公益財団法人介護労働安定センターの調査によると、2021年度の介護スタッフの離職率は16.2%に達しており、全産業平均の15.4%を上回っています。離職の主な理由としては、「職場の人間関係・雰囲気に不満」「法人や施設の理念や運営のあり方に不満」などが挙げられています。また、新たな人材の確保も難しく、介護職を目指す学生の数は減少傾向にあります。
これは、介護職のイメージの低さや、他産業と比べて低い賃金水準が影響しているとされています。人手不足により、1人あたりの業務量が増加し、残業や休日出勤が常態化するなど、悪循環が発生し介護スタッフの負担が増大しているのです。
また、もう一つの大きな理由が高齢化の加速による介護需要の増加です。日本は世界でも有数の高齢化社会であり、今後さらに高齢化が加速することが予測されています。内閣府の報告によると、2022年の65歳以上の高齢者人口は3,640万人で、総人口に占める割合(高齢化率)は29.1%でした。この数字は、2025年には30.0%、2040年には35.3%まで上昇すると見込まれています。高齢化の進展に伴い、介護を必要とする人の数も増加の一途をたどっています。厚生労働省の推計では、2025年の要介護者数は約700万人、2040年には約1,000万人に達すると予想されています。こうした介護需要の増加に対応するためには、介護サービスの量的・質的な拡充が不可欠です。
しかし、前述の人手不足により、従来の方法で対応していくには限界があります。ICT化を進めることで、業務の効率化と介護の質の向上を両立し、増大する介護需要に応えていくことが期待されているのです。
介護現場へのI C T化を進めるにあたって、まず効果として期待できるのが介護スタッフの業務効率化と負担軽減です。例えば、介護記録の作成にタブレット端末を使用することで、紙に直接書いていた作業が不要となり、記録にかかる時間を大幅に短縮できます。また、音声入力機能を活用すれば、キーボードを使わずに記録を作成することも可能です。加えて、スマートフォンやインカムを活用することで、直接スタッフ間で伝言をするために移動する必要もなく不要な移動時間を削減できます。
前述の通り業務効率化が進むことで、直接入居者に接するケアに、より時間を割くことができるようになります。私はこれを「裏の効率、表の非効率」と呼んでいます。間接業務(裏の業務)を徹底的に効率化することで本来重要な直接的介護サービス(表の業務)の時間確保ができるのです。
さらに、ICT化により収集されたデータを分析することで、科学的根拠のある介護ケアが可能となり、介護の質の向上が期待できます。また、ICTを活用して他職種や医療機関と連携することにより、入居者の健康状態に関する情報共有がスムーズに行えるようになります。これにより、適切な医療ケアとの連携が図れ、入居者の健康管理の質が高まります。さらに、ICTを通じて介護に関する最新の知見や技術を学ぶ機会を得ることで、スタッフのスキルアップにもつながります。
一方、介護現場では、計画書作成や連絡帳記入、申し送りや介護記録の入力、会議議事録作成や請求作業などの事務作業に多くの時間が割かれています。しかも、同じ内容をそれぞれの用紙やシステムごとに転記しているということも、よく目にする光景です。そうした重複作業の中で記入間違いや連絡漏れなどの人為的ミスが発生するリスクがあります。ICTシステムを導入することで、こうしたミスを大幅に削減できる可能性が高いです。
また、介護現場の特徴として「多職種連携」があります。多くのスタッフが協力してケアを提供するため、情報共有が非常に重要です。ICTツールを活用することで、スタッフ間の情報共有を円滑に進めることができるのもメリットの一つといえます。
例えば、クラウド上で介護記録を管理することで、どのスタッフでも、いつでも、どこからでも必要な情報にアクセスできるようになります。これにより、スタッフ間で入居者の状況を共有しやすくなり、一貫性のあるケアの提供が可能となります。
また、チャットアプリなどを使って簡単にメッセージをやり取りしたり、写真や動画を共有したりすることで、的確な情報伝達が行えるようになります。さらに、オンライン会議システムを活用することで、離れた場所にいるスタッフともリアルタイムで情報共有や議論ができるようになります。こうしたICTツールの活用により、スタッフ間のコミュニケーションが活性化し、チームケアの質の向上につながることが期待されます。
■介護現場でICT化を進める際の懸念点とは?
ここまで介護現場のICT化が求められる背景と得られる効果をご紹介しましたが、ICT化を進めるにあたりどのような懸念点が考えられるのでしょうか。
▼介護施設のICT化を促進する無線ナースコール「ココヘルパシリーズ」
https://www.gcomm.co.jp/