介護事業におけるチームマネジメントとはー成功させるためのポイント

介護経営

2024.12.16

目次


はじめに そもそもチームマネジメントとは
介護事業に「チームマネジメント」が必要な理由
介護事業における「チームマネジメント」の目的
介護事業における「チームマネジメント」成功のポイント
介護リーダーに必要なスキル
介護事業における「チームマネジメント」を成功に導くツール
まとめ

■はじめに そもそもチームマネジメントとは

「チームマネジメント」は、サッカーやバスケットなどの集団スポーツを想像するとわかりやすいでしょう。「◯◯予選突破」などの“目標”を掲げ、チームメンバーそれぞれが力を発揮してその達成を目指せるよう監督やキャプテンが“舵取り”をするイメージです。

同様に介護現場では、経営者や施設長が掲げる目標の達成のために、そこに所属するメンバーそれぞれが役割を持ち、“チーム”が一丸となって利用者に対応します。そのときの仕組みやルールを構築し、メンバーそれぞれが力を発揮できるようにサポートするのが「チームマネジメント」です。

■介護事業に「チームマネジメント」が必要な理由

1)“超”労働集約型の事業

多くの人材が集って働く産業を“労働集約型”と言います。医療介護事業、建設業や流通業などが、労働集約型産業の“代表”と言われています。その中でも“人手”の依存度が極めて高いのが介護事業です。

2)“価値観”の幅が極めて広い

人が多い現場で“一丸”となって働くためには、意見の統一が必要となります。しかし、福祉現場で働く人材の価値観(介護観)はとても幅広く、意見が割れやすいと言えます。例えば、要介護度の高いお年寄りに対して「安穏(あんのん)とした生活を送ってほしい」と考える人もいれば「リハビリを積極的にして、再び歩いてほしい」と考える人もいます。いずれも“間違っている”とは言えず、両極端の考え方が共存するのが介護現場です。

3)ダイバシティ経営の時代

さらに最近では、採用難によって外国人、シニア人材が増えています。また、異業種からの転職や、副業も増えてきました。多様な人材を活用する「ダイバシティ経営」が不可欠となりました。これら3つの理由によって、他産業以上にチームの舵取りをしっかり行う「チームマネジメント」が大事なのです。

■介護事業における「チームマネジメント」の目的

1)方針を統一する

先ほど述べたように、価値観の幅が広い上に、それを助長するほどに人材の多様化が進んでいます。そうした人材がたくさん集まって仕事をするのですから、まずは「どこを目指すのか」を明確にしなくては、現場は混乱してしまいます。チームマネジメントの過程で、お互いの目指すところに差異が生まれないように、具体化をしていきます。

2)連携して動く

介護業界には「多職種連携」とか「チームケア」という言葉があります。それぞれの職種、ポジションが役割を理解して専門性を発揮し、より質の高い介護サービスの提供を目指します。

3)スタッフのスキルアップ

チームとして最大の成果を上げるためには、それぞれのスタッフのスキルアップが不可欠です。冒頭であげてスポーツチームでもそうですが、1人でも機能していないメンバーがいると、そこが“穴”となって攻め込まれたり、他のメンバーが“穴埋め”のために余計に動かなくてはいけません。チームマネジメントを進める中で、チームメンバーの成長も目指すのです。

■介護事業における「チームマネジメント」成功のポイント

1)「方針」「目標」を明確にする

介護現場で言う「方針」とは、施設で言うと“利用者にどうなってほしいか”を具体化することが大切です。例えば前述の施設で言うと、「安穏とした暮らし」と「リハビリによる自立」のどちらを重視するのかを決めることが、何よりも大事です。

そして、仮に前者を選ぶのであれば、その“安穏”という言葉がどのようなものなのかをさらに具体化していきます。例えばそれが「季節を感じる」ということなのか「家族と頻繁に交流する」ことなのかなど、検討して明確にしていくのです。

2)目標を明確にする

「目標」とは、「方針」の「達成度(どの程度の水準で行うか)」と、その「達成期限」を言います。できれば“数値化”すると良いでしょう。家族との交流を頻繁にすることを目標にするのであれば、家族交流イベントの回数や、家族の訪問回数、家族への報告回数などを目標に掲げるのです。

3)「役割」と「行動基準」を具体化する

「チームマネジメント」では、ここで掲げた方針を具現化するために、各メンバーの場所、時間、場面ごとの「役割(動き方)」を具体的に示すことが大事です。「役割」は一つでないケースもあります。例えばあるデイサービスでは、機能訓練の時間の「介護リーダー」の役割は①記録、②見守り、③動きの指示、④浴室への誘導の4つでした。

また「役割」を決める際には、一緒に「行動基準(優先順位)」も決めておくと良いでしょう。例えば食事の際に介助が必要な利用者がいたとして、時間がかかっても、その方の残存機能を活用して食べていただくのか、食事の提供に過度に時間がかからないように介助を行うかなどです。

4)繰り返し伝える

「方針」「目標」「役割」「行動基準」は、1度や2度伝えるだけでは全く浸透しません。それらがチームメンバーの「共通言語」になるように繰り返し伝えるのがポイントです。

5)進捗確認と見直しの機会を計画する

チームマネジメントが停滞する最大の原因は、「方針」「目標」を言いっ放しにしてしまうことです。そうならないように、計画的に進捗確認をしましょう。そして、もし順調に進んでいなければ、その原因をつきとめて「役割(動き方)」などを修正していくのです。

場合によっては「目標」等を変えることも必要となります。到底達成できないような難しい目標を誤って掲げてしまった場合、それをやり続けたらメンバーの中で“あきらめムード”が広がり、チームが崩壊してしまうかもしれません。逆に簡単すぎる「目標」では、達成したら推進力(前向きに行動する力)を失い、衰退するリスクもあります。

■介護リーダーに必要なスキル

1)目標設定力

チームマネジメントを進める上で、適切に目標を設定することは極めて大事です。高すぎてもよくありませんし、逆に達成しやすくてもチームはまとまりません。また、法人や事業所の方針に合致していることや、チームメンバーに共感を得られることも重要です。ポイントは以下のようになります。

□法人・事業所の理念・方針に合致している

□達成可能性がちょうど良い(がんばれば達成できる)

□数値化されている

□達成期限が明確である

□達成のための「行動計画」が明確である

□達成のためのメンバーの「役割」が明確である

□達成のための「進捗確認」の機会が計画されている

これらはもちろん、法人の経営状況などの外部環境で変わりうるので、そうした環境に合わせて見直してみましょう。

2)リーダーシップスキル

「方針」「目標」やそれを達成するための手順を、チームメンバーから理解が得られるようにわかりやすく伝えたり、その達成を促すように時には熱く語りかけたり、先頭に立って行動するなど、リーダーとしての「あり方」を身につけなければいけません。また、チームマネジメントには欠かせない「会議」や「カンファレンス」を主催し、意見を交わして結論に導く「会議力」なども不可欠です。

3)コミュニケーション能力

チームとして一人ひとりが機能するように、日常的に声をかけたり、時には面談をして個別にサポートすることも重要です。ある特養では、全職員60人を対象に月に1度、短時間の面談を実施しています。これを実施するようになって、現場の対応力だけでなく稼働率が上がり、離職がほとんどなくなったそうです。

このように、チームメンバーを日頃のコミュニケーションによってサポートするスキルも、リーダーには不可欠なものです。

4)チームマネジメント 介護コーチング力

チームメンバーの力を最大限に引き出すためには、コーチング力も必要です。スタッフに手順を指導したり、具体的に動き方を指示する“ティーチング”のみのかかわり方では、“プラスアルファ”の行動は期待できません。それどころか“指示待ち”になってしまう不安もあります。その対策として、様々な問いかけ、投げかけによって相手の行動を引き出す“コーチング”をうまく織り交ぜる手法があります。メンバーがより活躍できるように、時には傾聴して現状を言語化させ、時には質問して解決策や次の行動を考えさせ、次のステップに迎えるように促していくのです。

5)問題解決力

どんなことでも「問題」はつきものです。崇高な方針、高い目標ほど、問題は起きやすいと言えます。その際に試されるのが、リーダーの力です。目標を再設定したり、メンバーを集めて課題の原因を究明してその解決を図る力は不可欠でしょう。

■介護事業における「チームマネジメント」を成功に導くツール

1)アクションプランシート

私が施設長やリーダークラスに、目標達成や課題解決を目的とした指導する際には、「方針」、「目標」、「行動基準」とそれらを達成するための「アクションプラン(行動計画)」の作成をアドバイスしています。特に「チームマネジメント」を意識したアクションプランでは「誰が」「いつまでに(またはどれくらいの頻度で)」「何をするか」を明確にするのがポイントです。

2)会議サマリーと議事録

「目標」を繰り返し伝え、その進捗状況を共有するのに、会議資料(サマリー)は不可欠です。また、そこで議論された「対策」やそれを実行するための業務、スケジュールを記載した会議議事録もセットで活用したいところです。定期的に開催される会議では、前回の会議で決めた“宿題”がきちんと実行されているかを振り返るために「議事録」を確認しながら進めていきましょう。

3)コミュニケーションツール

シフト制で勤務する入所系などでは、顔を見て声をかけることが難しいこともあります。その対策として「申し送りノート」を活用するのが一般的ですが、法人内でチャットシステムを導入している場合には、チャットグループを設定して頻繁に情報共有をするのが効果的です。こうしたコミュニケーションツールもうまく活用していきましょう。

■まとめ

チームマネジメントを行う規模は、委員会やユニットなどの小規模な場合もあれば、施設単位、法人単位または業界団体のように大規模になるケースもあります。また、期間限定のものもあれば、長期的に組成されるチームをマネジメントすることもあるでしょう。規模、場面に応じて手段の差異はありますが、今回お伝えした方法が基本になります。チームが一丸となって最大の成果を得られるように、着実に進めていきましょう。

執筆 株式会社スターコンサルティンググループ
代表取締役 糠谷和弘氏


介護保険施行当初から介護経営コンサルタントとして活躍する草分け的存在。指導実績は500社を超え、「日本一」と呼ばれる事例を多数つくってきた。現場指導のかたわら、多数の連載のほか、年間50本以上の講演もこなす。また「旅行介助士®」を養成する一般社団法人日本介護旅行サポーターズ協会の代表理事、福祉事業を総合的に運営する株式会社エルダーテイメント・ジャパンの代表取締役も務めている。

ココヘルパ製品詳細へ